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エリザベス女王のお気に入り ~王室御用達の紋章を探してロンドンを歩く~

王室が管理するロンドンの広大な公園に水仙が咲き誇り、春の気配を感じる3月。キリスト教の国では重要なイベント「イースター(復活祭)」を目の前にして、人々の心も踊り始めます。今回は女王のお膝下、「バッキンガム・パレス」を中心としたヴィクトリア駅周辺を散策してみました。


ロンドンを訪れた人が必ず立ち寄るバッキンガム・パレス。春を告げる水仙が出迎えてくれます。


ロンドンを訪れる人々が、一度は必ず訪れるのが「バッキンガム・パレス」です。午前11時半、おもちゃの兵隊さんのような衛兵交代のチャーミングな行進は、訪れた人々を魅了します。軍楽隊の演奏は真面目な軍隊行進曲だけではありません。ビートルズの名曲や、ミュージカル「メリー・ポピンズ」の曲、時には北欧のポップ・ミュージックグループ「ABBA」という風に、パレス(宮殿)担当者の粋な計らいを思わせるレパートリーです。王室メンバーの誕生日には「ハッピー・バースデー」の曲が演奏されます。4月21日のエリザベス女王90歳のお誕生日には、いつもより盛大にこの曲が演奏されることでしょう。


衛兵交代や鼓笛隊の演奏を楽しみに多くの観光客で賑わいます。


ここで少しパレスの歴史を紐解いてみましょう。エリザベス女王が産声をあげたのは、メイフェアのブルートン・ストリートにある家でした。ウィンザー朝の第2代国王であったエリザベス女王の叔父のエドワード8世が慣例を破り、王室では認められない女性と夫婦関係をもち退位した為、エリザベス女王の父ジョージ6世が戴冠。その後女王はこのバッキンガム・パレスで育ちました。建物の前身は、実は今よりもだいぶ小さめのタウンハウスで「バッキンガム・ハウス」と呼ばれており、バッキンガムシャーの貴族であるバッキンガム伯爵が、1703年にロンドンの根城として建てた比較的大きめのタウンハウスでした。

英国王室の正式な住まいとなったのはヴィクトリア女王時代の1837年で、現在の姿は増築後のものです。その大きさは横幅108メートル、奥行きは120メートル、高さは24メートルもあります。庭は40エーカー(東京ドーム約3個分)あり、敷地内には大きな池があるほか、見事な花を咲かせる数々のバラ園が有名です。


2013年に開催されたコロネーション・フェスティバルはパレスの庭にゲストが集いました。


部屋数は全部でなんと775室。国賓や国際的な重鎮などをお迎えするステート・ルームは19室、迎賓用のゲストルームを含む女王の私生活用の部屋数は52室あります。一方、働くスタッフ用の部屋は188室、オフィスは92室、化粧室は78室。そして全室内に置いてある時計の数は350個にものぼり、年に2度の夏時間と冬時間の切り替えを行う際、時計メンテナンス係は大忙しだそうです。そのほか、郵便局、診療室、プールやシネマなど娯楽施設もあり、パレス内はまるで小さな村のようです。

女王がパレスにいらっしゃる時はユニオン・ジャックの国旗が威風堂々と空高く風になびきます。女王はここで63年もの間、英国を統治してきました。政治というよりは、迎賓などの外交側面支援、チャリティの擁護等、君主として社交の場では潤滑油のようなお役目を果たしていると言ってもいいでしょう。


パレスでは年間約5万人のゲストを正式な晩餐会に招待しています。晩餐会は決まって夜の8時半に始まりゲストの数は200人前後、大きなテーブルにずらりと並べられるフォークやナイフはすべて純金製。テーブル・セッティングが完了すると、女王自らが最後の点検をするそうです。

初夏には、庭で園遊会なども開かれます。男性は燕尾服、女性はロングドレスにハットという出で立ちで、招待客はパレスの正門から行儀よく列を作り門の中に消えていきます。赤い絨毯が敷き詰められたレセプションを通り、ペルシャ絨毯の居間を横切ると、広い緑の芝生の庭に出ます。軍楽隊のバンドがリズミカルな音楽を奏でる中、アフタヌーンティーが提供され、そして選ばれた人だけに、女王やフィリップ殿下からのお言葉を頂けるのです。

招待されなくても、バッキンガム・パレスの中に入ることは可能です。女王は夏の休暇をスコットランドのバルモラル城でお過ごしになり、家族だけの静かな時間を楽しみます。その期間、一般公開されるので観光客もパレス見学が可能なのです。

正面の門前にある大きな噴水の反対側には「The Mall(ザ・マル)」(バッキンガム宮殿からトラファルガー広場を結ぶ通り)という幅広い美しい並木道があります。この道は女王の結婚式、戴冠式、近年はダイヤモンド・ジュビリーやロイヤル・ウェディング等で、4頭立ての馬車が人々の歓声に送られてパレスへと向かう際に通る王室の伝統的な花道です。


ダイヤモンド・ジュビリーのパレードの様子。右はピカデリーで開かれたストリートパーティー。


この「The Mall」の並木道が2016年6月12日には通行止めとなり、道の端から端までおびただしい数の細長いテーブルが並びます。実は、女王90歳の誕生日をお祝いする為に、巨大なストリートパーティー「ザ・パトロンズ・ランチ」が計画されているのです。女王がパトロンを務める約600のチャリティ団体が主体で、約1万人の人たちが道に並んだテーブルでパーティーを行います。食事はピクニック仕立てで、美味なサンドウィッチやサラダ、ケーキ等が、ハンパーという柳の枝で編まれた昔ながらのバスケットに詰められ配られます。


6月12日に予定されているストリートパーティーのチケットはすでに完売。


ストリートパーティー当日、緑の葉に覆われた「The Mall」の並木道には、おびただしい数のユニオン・ジャックがはためき、英国の誕生日には欠かせない色とりどりのトリコロールの風船が飾られるでしょう。人々は口々に「女王万歳、90歳おめでとう! ロング・リブ・ザ・クィーン!」と叫び、シャンパングラスで幾度も乾杯することでしょう。気分屋な英国の天気も、その日ばかりは晴れ渡ることと思います。


さて、パレスを中心に、この「The Mall」と丁度反対側にあるヴィクトリア駅に向かってパレスの壁沿いに歩いて行くと、パレス付属の「クイーンズ・ギャラリー」の入り口にさしかかります。ここには女王が所蔵する美術品のコレクションが展示されていて、入場料さえ払えば誰でも中に入ることができます。女王の所蔵品を元に、様々な切り口の展覧会を仕掛けています。例えばロシア皇帝御用達だった宝石「ファヴァジェ」ならではの、卵型の宝石細工品のコレクションや、世界に数少ないフェルメールによる油絵、今月はスコットランドの画家による絵画展など、名品コレクションの数々を垣間見ることができます。


「クイーンズ・ギャラリー」の脇には王室ゆかりのグッズを集めたショップがあります。


ギャラリー入り口付近のショップもお見逃しなく。展覧会のカタログだけでなく、いろいろなパレス・グッズを販売しています。女王が愛するコーギー犬のぬいぐるみから、バッキンガム・パレスの特別ブレンド紅茶、優雅なティーカップセット等、様々なパレス・グッズが並んでいます。


ショップ内は紅茶やスイーツ、そして雑貨等「パレス・グッズ」がいっぱいです。


さて、このヴィクトリア駅界隈には、王室御用達の5つ星ホテル「ゴーリング」があります。1910年創業、世界で初めて、ホテルにセントラル・ヒーティング(暖房機器)を完備し、各部屋バス・トイレ付きというモダン施設を導入した名門ホテルです。そして、今も創業当時と同じオーナーによる家族経営です。女王のお母様で今は亡きクィーン・マザーも「ゴーリング」が大好きでいらっしゃいました。そして、お亡くなりになる前、最後に公にお姿をあらわされたのも、この「ゴーリング」のティールームでした。家族経営らしいスタッフのきめ細やかさは有名で、こぢんまりとした建物はまるでロンドンの瀟洒な個人宅のようです。


静かな佇まいの「ゴーリング」。ガーデンを臨むアフタヌーンティーも人気です。


2011年、ケイト・ミドルトン(キャサリン妃)とそのご家族は、この「ゴーリング」に長期滞在されました。そして、アイリッシュ・レースのアップリケが施された純白のドレスに身を包んだケイトは、ここから父親にエスコートされて教会に向かう車に乗られたのでした。朝霧のようなベールで覆われたケイトの幸せそうな顔が、一瞬だけテレビの生放送に映し出されたのも、この「ゴーリング」の正面玄関先でした。


左はモースト・スプレディッドルーム、右はロイヤル・スイート(ベッドルーム)。


ホテルのロビーは今では何事もなかったかのように落ち着いた時間が流れ、昼間から品の良い紳士達が商談を兼ねてバーに集まり、しとやかな趣の淑女達がアフタヌーンティーを楽しんでいます。午後のお茶ならゴーリング・アフタヌーン・ブレンドがおすすめです。砂糖をいれなくても甘いなめらかな舌触りのブレンドを、白磁に金の特製手描きのカップ&ソーサーで味わえます。まろやかで上品な味が口の中に広がるその瞬間、誰もがちょっとした王室気分になれるはずです。


ホテル内は控えめながら王室に愛され続けてきた伝統を感じさせてくれます。


ヴィクトリア駅からややパレスの方向に戻ると、800にものぼる王室御用達の業者を管理する「王室御用達協会」があります。春になると、協会は特に忙しい時期を迎えます。というのも3月から5月の3ヶ月間、「王室御用達の指名を受けたい」と願う経営者からの願書の受付が始まるからです。協会では殺到する願書の内容を確かめたのちに、各企業の会計監査をします。それに通った企業の願書だけが、女王の生計全般を取り仕切る「ザ・ロード・チェンバレン」という名前のオフィスに提出されます。そして「ザ・ロード・チェンバレン」傘下に控える10人のパレス付バイヤーによる審査に入ります。


DAKSはエリザベス女王、フィリップ殿下、チャールズ皇太子から御用達の指名を受けています。


一度指名を受けると、向こう5年間は御用達と指定され、紋章を店内にディスプレイしたり、印刷物に使用することが許されますが、その使用については厳しい規定や制限が設けられており、また王室のプライベートについて口外しない等、細心の注意を払わねばなりません。一方、御用達業者たちが連携して、英国の伝統クラフトの擁護やクラフトマンの育成等を目的としたスカラシップ制度(QEST)を推進するなど、メンバー同士の協調と社会的貢献も積極的に行われているのです。



文:山形優子フットマン / 写真:富岡秀次


【記事内関連情報URL】
Buckingham Palace(バッキンガム・パレス)
https://www.royalcollection.org.uk/visit/the-state-rooms-buckingham-palace/plan-your-visit?language=ja

The Patron's Lunch(ザ・パトロンズ・ランチ)
http://www.thepatronslunch.com/

The Queen's Gallery(クイーンズ・ギャラリー)
https://www.royalcollection.org.uk/visit/the-queens-gallery-buckingham-palace/plan-your-visit?language=ja

Royal Collection Shop(ロイヤルコレクションショップ)
http://www.royalcollectionshop.co.uk/

The Goring Hotel(ゴーリング)
http://www.thegoring.com/

Royal Warrant Holders Association(王室御用達協会)
https://www.royalwarrant.org/



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