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エリザベス女王のお気に入り ~王室御用達の紋章を探してロンドンを歩く~

ロンドンで、おしゃれな街と言えばチェルシー地区です。この地区は上流階級の人たちが多く住んでいるエリアとして有名です。例えば地方に大きなマナーハウスを持つ大富豪などが、ロンドンの拠点用として、この地区に素敵なアパートメントを持つという具合です。


ロンドンで上品さとおしゃれさを兼ね備えたチェルシー


この界隈は現在もカドガン伯爵家が大地主です。伯爵はハロッズ百貨店があることで有名なナイツブリッジ周辺の地主でもあります。もとはと言えば1712年にサー・ハンス・スローンという不動産富豪がチェルシー・マナーハウスを買い付け、彼の娘がカドガン伯爵家に嫁ぎ、やがてスローン家の土地がカドガン家のものと合併されたのがチェルシーの前身なのです。そんな場所柄ですから、当然王室御用達の店も点在しています。


地下鉄の駅を一歩出ると、歩いている人達のセンスの違いがわかります


地下鉄スローン・スクエア駅で下車すると、そこはもうチェルシー地区。駅を出ると背の高い木々が立ち並ぶ小さなスクエアが目の前に見えます。これがスローン家の名前にちなんで付けられた「スローン・スクエア」です。この小広場の向こうに見えるのが王室御用達の百貨店「ピーター・ジョーンズ」。店名のすぐ上にフィリップ殿下とチャールズ皇太子の二つの紋章が堂々と掲げられています。この百貨店は特に生地の販売で有名。種類が多い上、質も高く、家具への張り替えサービスなどもしてくれます。階上のレストランもなかなかおしゃれで、界隈に住む上品なマダムたちの憩いの場になっています。


スクエアの向こうに建つピーター・ジョーンズは王室御用達の百貨店


ピーター・ジョーンズの向かい側には、素敵なお店が並ぶ、広々としたもうひとつのスクエアがあります。その名も「デューク・オブ・ヨーク・スクエア」。ここは10年ほど前までは英国陸軍の兵舎があった場所で、当時は赤いレンガの塀が巡らされていましたが、その壁はすっかり取り払われ、再開発が進み、今では広々とした石畳のスクエアが清々しく広がっています。おしゃれなブティックやレストランなどが立ち並び、市民の憩いの場となっています。


ピーター・ジョーンズを過ぎるとデューク・オブ・ヨーク・スクエア(左)
現代アートで有名な美術館、サーチ・ギャラリー(右)


そのスクエアの奥にあるのが王室御用達店「パートリッジ」、エリザベス女王お気に入りのグローサリー・ショップです。王室御用達というと老舗を想像される方が多いかもしれませんが、実はパートリッジの歴史は1972年創業と比較的新しいのです。現在の社長ジョン・シェパードさんが、お兄さんと二人で立ち上げたお店です。この広場に移ってきたのは2005年、今ではスクエアの目玉といっても過言ではありません。


このエリアを訪れる観光客は必ず立ち寄る王室御用達グローサリー・ショップ「パートリッジ」


パートリッジの代表ジョン・シェパードさん。王室御用達協会の会長を務めた経歴の持ち主


このジョンさんは2007年に、王室御用達の業者をまとめる王室御用達協会(ロイヤル・ウォラント・ホールダーズ・アソシエーション)の会長を務めた経歴の持ち主。会長の任期は1年で、その間に70~100件の王室絡みのイベントに参加し、女王には4回ほど謁見したそうです。彼は「忙しかったけれど、素晴らしい経験ができた」と誇らしげに語ってくれました。

そんなジョンさんが教えてくれた、とっておきのお土産があります。それはエリザベス女王お気に入りのハチミツで、南太平洋に浮かぶ英国領ピトケアン諸島で作られるもの。1瓶12ポンドもする、琥珀色のハチミツには熱帯の花と果物の香りが閉じ込められています。バッキンガムパレスの奥の居間で、ご自分の領土であるピトケアン諸島に思いを馳せながら、ハチミツに舌鼓を打たれる女王の姿を想像すると、つい「どんな味なのだろう」とハチミツの瓶に手が伸びてしまいます。



エリザベス女王のお気に入りは南太平洋産のハチミツ


チェルシーと言えば毎年5月に開催されるチェルシー・フラワーショーで有名ですが、パートリッジでは、このフラワーショーにちなんだザ・チェルシー・フラワー・コレクションも製造・販売しています。色とりどりの花があしらわれたデザインのパッケージがとても美しく、エコバッグからビスケット、そしてお茶まで、見ているうちに、まるで一足先に春が訪れたかのような楽しい気分になります。ギフトとして一押しの商品です。


パートリッジの一番人気はチェルシーフラワーのデザイン。チェルシーらしい色合いが鮮やか


ちなみに、チェルシー・フラワーショーの会場は駅を中心にパートリッジとは反対側にあります。真っ赤な長いコートに黒の帽子という出で立ちの、年老いた退役軍人たちの宿舎内の広大な庭がその会場。王立園芸協会(RHS)の主催で開かれる、この恒例のフラワーショーのパトロンは女王で、毎年女王が行なうショーのオープンセレモニーでの姿がテレビでも報道され、そのファッションも話題となります。

店の中には、素敵なグローサリーグッズが所狭しと並びます。どれもパッケージが素敵で、目移りしてしまうほどです。2月はバレンタインのお祝いがあるので、ハートのパッケージのチョコレートや、春の復活祭用のお菓子などもうず高く陳列されていました。また、パートリッジの店内にはデリカテッセンやベーカリーもあり、クロワッサンやケーキなどのおいしそうな食材が目をひきます。店の奥にはカフェがあり、ポークパイやサラダなども注文できて、いつも人で賑わっています。天気の良い日は、店の入り口のすぐ前にあるカフェコーナーも人気です。



バレンタイン、イースターなど、四季折々のイベント毎に変わるディスプレイが楽しめます


そのカフェコーナーに座ると、広場の向こうに2007年に移転オープンした現代アートで有名な美術館、サーチ・ギャラリーの全容が一望できます。ユニークで前衛的なアートを楽しんだ後、パートリッジで買い物をし、その後はカフェで一服というコースはなかなか素敵です。ジョンさんおすすめのケーキは真っ赤な色の「レッド・ベルベット・ケーキ」。アイシングにほのかな酸味があり、コーヒーにもパートリッジ・ブレンド・ティーにもぴったりの味でした。コーヒー・ウォールナッツケーキも人気だそうです。


ジョンさんおすすめのレッド・ベルベット・ケーキ。鮮やかな赤色が印象的


広場では毎週土曜日に食材マーケットが立ち並びます。これもパートリッジが主催しているもので、はじめは15軒の出店者でスタートしましたが、今では70軒に膨らみました。ファーマーズ・マーケット風ですが、純英国産の食材は農作物だけではなくシーフードのほか、チーズ、花、そして国際色豊かな食べ物なども立ち並び、見ているだけでもワクワクするような市場です。週末のマーケットでは、バギーに子供を乗せた若いカップルや、ペット犬を引き連れた上品なマダムたちなど、住宅街に住む人々の素顔を垣間見ることができます。


 

毎週土曜はパートリッジのマーケットの日。いくつものストールを回るだけでも楽しい


百貨店ピーター・ジョーンズの裏側の小道にも、ひとつ王室御用達のかわいいお店があります。チョコレートのお店「プレスタ」です。愛らしいエレクトリック・ピンクが基調のモダンな店構えながら、実は1902年創業という歴史の重みを備えたブランドです。


王室御用達のショコラティエ、プレスタはチェルシーらしい可愛い店構え


女性達のおしゃれなランチや学校が終わった午後に立ち寄る親子連れの姿が後を絶ちません。ママはホットチョコレート、金髪のおさげのお嬢ちゃんは棒がついている舐めチョコ、という具合にプレスタには一日中こういった親子連れがたくさん訪れます。



店内はプレスタらしいヴィヴィッドなピンクとブルーで統一


女王の御用達に認定されたのは1975年、今は亡き女王の御母堂クィーン・マザー、そして故ダイアナ妃もプレスタのチョコレートの大ファンだったそうです。女王のお気に入りは「ヴェルヴェティー・ミルクチョコレート・スィン」、つまりヴェルヴェットのようにスムーズな薄さのミルクチョコレートで、アールグレイの香りがする代物です。箱はプレスタ・ピンクにシックな紫色、値段は約12ポンドです。試しに一つ買って食べてみると、ほのかなアールグレイの香りが、柔らかい舌触りのチョコレートの中から現れて、なんとも言えない品の良さです。


皇太后もダイアナ妃も好きだったという人気のチョコレートをお土産に


プレスタは英国人に愛されるショコラティエ。「チャーリーとチョコレート工場」で有名な英国の童話作家ロール・ダールは、プレスタのチョコレートをテーマにストーリーを書いたほどです。チョコレートの中に「惚れ薬」が込められていたというお話ですが、きっとバレンタイン・シーズン中は大活躍でしょう。

カフェで一服したい人へのおすすめは、ホットチョコレートのショット。種類はクラシック・ダーク・チョコレート、スパイスがきいたマハラジャ・チャイ・ホット・チョコレート、ゼスティー・オレンジ・ホット・チョコレートの3種類。いずれも愛らしい色違いのデミタス・カップ&ソーサーで提供されます。値段は1ショット2.5ポンドですから、お友達と二人で3種類注文し味見してみるのもいいでしょう。ちょっと疲れた時は、クラシック・ダーク・チョコレートのマグカップ入りが最高。こちらの値段は3.5ポンドです。


店内ではショコラティエらしい絶品のホットチョコレートがおすすめ。エコバッグも人気アイテム


もちろんコーヒーや紅茶も楽しめますし、プレスタならではのチョコレート付きアフタヌーンティーも豪華。サンドウィッチ、マフィン、スコーン付きで二人分35ポンドです。店の前にある外のテーブルに陣取り、隣の花屋さんの春の花々に目を奪われながらゆっくりと味わうプレスタのチョコレートは、まさにジュエル。至福の時そのもののように、食べる人を優しく包んでくれます。

近隣には王室御用達、1887年創業のステーショナリーの老舗「スマイソン」もあります。女王の手紙好きは有名で、届いた手紙は一つずつ自ら開封し、まめに目を通されるそうです。その数は年間数百通にものぼるようです。それでもパレス(宮殿)の担当者たちは、「礼状は直接女王にお出し下さい」と、各国要人などの秘書たちに、ひるまず手紙書きを促すようです。そして女王ご自身も招待を受けたら、自筆の礼状を必ず出されます。その際のステーショナリーはスマイソン製の特注で、女王のイニシャル入りです。


若者も憧れるステーショナリーブランド「スマイソン」


店で一番手頃なオリジナルの便箋と封筒は30ポンド前後で買うことができます。その色はスマイソン・ブルー、なんとも言えない水色で、思わずインクで字を書いてみたくなるほどです。ロンドンでは最近、テキストやEメールを物足りなく感じる若者たちが増えつつあるのか、手書きの手紙による文通がリバイバルしつつあります。

そんな若者たちの中で珍重されているのは、やはりスマイソン・ブルーの便箋と封筒です。恋人のお誕生日プレゼントとして便箋のヘディングに、彼女のイニシャルを特注でつけてもらおうと、スマイソンに足を運ぶ青年たちを店で見かけました。近年は、デイビッド・キャメロン首相夫人サマンサ・キャメロンが経営陣に加わり、ハンドバッグやトラベルバッグなど、ステーショナリー以外の伝統プロダクトにも新風を吹き込んでいるようです。

このエリアにはカドガン家の名にちなんだ建物や通りなどが多々あります。スローン・スクエア駅右手奥の「カドガン・ホール」もそのひとつ。クラシック音楽だけでなく、ロックコンサートなども開かれます。ホールからさらに行くと、「カドガン・ガーデンズ」という高級住宅地に出ます。その一角にあるのが、ブティック・ホテル「№11 カドガン・ガーデンズ」です。6階建ての建物は19世紀の貴族のタウンハウスだったものです。静かな住宅地にあるこのタウンハウスに泊まって、スローン族といわれる英国の上流階級のライフスタイルを満喫してみてはいかがでしょうか? また、近隣にある由緒あるホテル「カドガン・ホテル」は現在改装中ですが、来年には新装オープンの予定です。どんな姿に生まれ変わるのか楽しみです。


カドガンの名前を冠したカドガンホール(左)とNo.11カドガン・ガーデンズ(右)


スローンは歴史的にトレンドを生み出す街でもあります。80年代は「スローン・レンジャー(スローン族)」という言葉が大流行しました。上流階級の出で、スローン・スクエア近辺に住み、レンジ・ローバーなどの大型高級車を乗り回す人たちがスローン族と呼ばれました。故ダイアナ妃が独身だったころ、愛車こそレンジ・ローバーではありませんでしたが、上流階級スペンサー家の彼女は"スローン族"の代表と言われました。
その一方で、目ぬき通りであるキングス・ロードは、ファンキーなファッションを発信し続けた若者の街でもあります。

モヒカン刈りにピアスというパンクスタイルも、ジーンズに裸足のヒッピーも、この街角から産声をあげました。いつ行っても変わらない上品な街並みだからこそ、エネルギー旺盛な若者達がついつい自己主張したくなるのでしょうか。スローンは不思議な魅力を持つ街です。上流階級層だけで膠着してしまわず、斬新でファッショナブルな風がいつも吹いています。考えてみれば、英国王室も、常に時代の変化に合わせながらも、その伝統を維持してきたのです。長年の伝統こそが、実は面白いトレンド発信の母体なのかもしれません。


スローン族をはじめ、さまざまなファッションのトレンドを生み出してきたチェルシー


文:山形優子フットマン / 写真:富岡秀次


【記事内関連情報URL】
Peter Jones(ピーター・ジョーンズ)
http://www.johnlewis.com/our-shops/peter-jones

Saatchi Gallery(サーチ・ギャラリー)
http://www.saatchigallery.com/

Partridges(パートリッジ)
https://www.partridges.co.uk/

Chelsea Flower Show(チェルシー・フラワーショー)
https://www.rhs.org.uk/shows-events/rhs-chelsea-flower-show

Prestat(プレスタ)
http://www.prestat.co.uk/

Smythson(スマイソン)
http://www.smythson.com/

No.11 Cadogan Gardens(№11カドカン・ガーデンズ)
http://www.no11cadogangardens.com/en



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